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■ 『AI vs .教科書が読めない子どもたち』 読解力がたいせつ (2019.6.11)








いま最も世間の関心を集めているのはAIだろう。そんなとき、子どもたちの教育はどうあるべきか、というのが本書のテーマ。著者は東ロボ・プロジェクト――ロボットを東大に入学させようという試み――の経験から、「読解力」にこそ注目すべきであるという。東ロボでは、国語の読解力問題にひどく苦戦したのである。


AIが人間に取って代わることがあるのだろうか。数学者である著者は、AIがコンピューター上で実現されるソフトウェアである限り、AIが人智を超えて人類を滅ぼしたりすることはない。ましてや、「シンギュラリティ」が到来することはないと断言する。AIが人間を凌駕するためには、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければならない。しかし現在の数学にはそんな能力はないと。コンピューターの速さや、アルゴリズムの問題ではなく本質的な課題である。

「シンギュラリティ」とは技術的特異点と訳される。AIが自律的に、つまり人間の力をまったく借りずに、自分自身よりも能力の高い、真の意味でのAIを作り出すことができるようになった時点のことである。

オックスフォード大学のチームが「雇用の未来 コンピューター化に影響されやすい仕事」という研究論文を発表した。10〜20年後に残る仕事と、なくなる仕事を選別している。全雇用者の半数が仕事を失うという。銀行の融資担当者は、担保に基づいて返済能力を審査し住宅ローンなどの融資を行っている。ビッグデータによって機械学習を済ませたAIでは、このような融資作業は得意分野になるだろう。いまや、ローンの与信審査を完全に自動化した銀行が現れているほどだ。

一方、10〜20年後にも残る仕事の1位はレクリエーション療法士、2位は機器の整備・設置・修理の第一線監督者。ついで危機管理責任者、メンタルヘルス・薬物関連ソーシャルワーカー等々。これら残る仕事の共通点は、「コミュニケーション能力」だろうか。介護のような、柔軟な判断力が求められる肉体労働もそうだ。

ところで、私たち人間が単純だと思っている日常の行動は、AIにとっては非常に複雑な行動となる。冷蔵庫から缶ジュースを取り出すという簡単な作業ひとつを考えてみても。そこでは人間はとてつもない量の常識を働かしている。缶ジュースはどこにあるのか、押し入れや靴箱にはないだろう、冷蔵庫のどこを探せば見つかるのか……等々。人間は、日常のさまざまな場面で常識を働かせて問題を解決している。中学生レベルの常識であっても、AIに教えることはとてつもなく難しいことだろう。

言語の翻訳はどうか。「統計と確率」の手法でAIに翻訳をさせる試みがある。文章の意味はわからなくても、既知の単語と組合せから統計的に推測して、正しそうな翻訳結果を導き出そうというものだ。統計の元になるデータは、多くの人が日々AIに話しかけることでどんどん増える。それを用いて自律的に機械学習を重ねることで翻訳の精度がどんどん上がっていく仕組みだ。帰納的手法か。一方、演繹的な手法で自動翻訳を実現するには文法だけでなく、精緻な言語のルールを準備しておかなければならない。自然言語処理の攻略は非常に困難だろう。

著者は読解力に注目し、その教育レベルを捉えるために、「リーディング・スキル・テスト(RST)」を開発した。文がどこで区切られるか、主語と述語の関係、修飾語と被修飾語の関係などの理解レベルをはかるもの。同義文判定は、2つの違った文章を読み比べて意味が同じであるかどうかを判定する。RSTを使って中高生の読解力の調査・分析を行った。結果は、英語の単語や数学の計算などの表層的な知識は豊富であることがわかった。ところが、中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を、正確に理解できないのだ。約3割が表層的な読解にすら問題があることがわかった。

【例題】係り受けの問題 (意味のつながり) <例文は教科書からひろっている>
アミラーゼという控訴はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、おなじグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

この文章において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つえらびなさい。
セルロースは( )と形が違う @デンプン Aアミラーゼ Bグルコース C酵素 <正解は@>

AIは、中高生の多くと同じように、教科書の記述を正確に読み取ることが不得手である。数学ができないのではなく、問題文を理解していないのだろう。論理的な読解と推論の力が求められる。これから、AIと共存する社会。多くの人々がAIにはできない仕事に従事できるような能力を身につけることが求められる。必要なのは、仕様書を正しく理解して手順書どおりに作業をし、ほうれんそう(報告・連絡・相談)がきちんとできる普通の人材なのだ。


◆ 『AIvs.教科書が読めない子どもたち』 新井紀子、東洋経済新報社、2018/2


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